読書メモ:組織戦略の考え方

組織戦略の考え方

この本は日本の組織の本質的な部分を維持しながら組織設計を行うにはどうすればいいか、について考えられた本です。
「本質的な部分」とは"コア人材を長期雇用すること"と定義されています。
長期雇用を前提とした企業の中で「どのように組織構造を作るのが良いか」または「どのような点を疎かにすると組織が機能しなくなるか」について語られています。

官僚型組織と自己組織化

本書で特に印象的だったのは「官僚型の組織構造が基本である」という部分です。
ここでいう官僚型組織とは「社長をトップとして、中間層として管理職が何層かに配置されたヒエラルキー型の組織」を指しているのですが、官僚型の階層における役割分担として、下記のように説明されています。

  • トップ ... 長期的な戦略を立てる
  • ミドル ... 現在の業務の例外処理を行う、例外処理を定型化して現場に降ろす
  • 現場 ... ルーチンワークを実行、判断できない例外があればミドルに投げる

この構造では現場はルーチンワークに注力し、例外処理を判断して、現場に沿った「革新的なアイデア」を思いつくのはミドル層とされています。

本書を読んだ際の疑問として " 自己組織化されたチームと官僚型組織とは相反する考え方なのか " という点があったのですが、読み進めるうちに、

  • 相反する概念ではなく、自己組織化したチームがある組織でも組織全体として階層構造は必要
  • 自己組織化したチームを取り入れる場合の、組織全体から見た官僚型との差異はミドル ~ 現場の部分にかかってくる

という整理ができました。

官僚型の組織構造で問題となるのは、環境の不確実性が高い状況で例外処理の判断がミドル -> トップまで侵食してしまい、組織全体で長期的な意思決定ができなくなってしまう場合で、対処法として本書では"事業部制(あるいはより小規模で自律的な組織ユニット)"が紹介されていました。

一定の権限を持った組織を事業部として独立させることで、トップの例外処理に対する負荷を軽減するというものですが、不確実性の高い環境では特に例外処理に対する意思決定を現場で行うことが重要なため、現場が扱う領域が「ルーチンワーク」なのか「不確実性が高く、探索が必要なタスク」なのかで自己組織化したチームが必要かどうかを判断するのがよさそうです。

SCRUMMASTER THE BOOKの中でも、"自己組織化したチームはいずれも与えられた境界内でのみ自己組織化する"と書かれており、自己組織化したチームと官僚型の組織は両立できるものであると理解できたのは良かったです。

本書を読んで「権限をできるだけ現場に委譲する」ことの重要さを改めて感じました。
意思決定が経営者に集中するとそこがボトルネックになるため、より現場に近いところで決断ができる人を増やす必要がありますが、自己組織化したチームという文脈でも従来の官僚型の組織構造という文脈でも、意識づけやプロセスの整備によって、体制として委譲できる環境を整えていくことが重要な点だと思いました。

そのほかにも「マトリクスは何も解決しない」という話や「誰かが労力を割くことで全体へ利益が生まれる場合、利益に"フリーライド"してしまう人が発生する問題」、組織が腐敗していくプロセスについての整理など、ある程度規模が大きな組織を運営する上で壁になりそうな事象に対して言及されており、拡大していく組織のなかでどのように組織構造の変化に向き合うかを考える上で良いヒントを提供してくれる本だと思います。